〜 軍船・甲板 〜

 

甲板の上で激戦を繰り広げるルルン。

 

 

スペール「おうおうどうした? その程度かい」

 

 

しかし、彼女の前には帝国軍四天王で多種多彩の属性を持つ魔法の俊才。

小さい頃にこの街で育った彼女にとっては正しく故郷。

例え正男より力は劣っていてもその故郷を守る強い信念の為に、正男とマシュリンの下から離れたのだ。

 

 

ルルン「はぁはぁ…」

 

 

ルルンの表情に疲労の色が見え始める。

 

 

スペール「正男だと思っていたが、大したものだ。 だが、そのちっぽけな信念じゃ叶わなかったようだ」

 

 

スペールは指一つ上げると、指の上から球体が現れる。

球体の中身が風が吹き荒れており、球体の裏側に摩擦が入ってるせいか所々に斬撃のようなものが見えてくる。

 

スペールが出した技は、この球体が地面などに当たれば、

球体が割れ中から空気を切り裂く程の無数の風が飛び出す仕組みで、

いわば風を利用した斬撃破を起こす爆弾みたいなものだ。

 

 

スペール「貴様の好きな海で魚の餌になって果てな!」

 

 

自身の勝利を確信したスペールは球体をルルンに向けて投げ飛ばそうとしたその時…

 

 

正男「食らえ! エネルギー砲」

 

 

船外から正男が飛び出す形で現れ、スペールに目掛けてエネルギー砲を放った。

 

 

スペール「うわっ!」

 

 

正男の襲撃に驚いたスペールは咄嗟に避けたが、球体の魔法が指から離れ船外の海に落ちた。

 

 


ドドオオォーーーン!!!

 

 

海に落ちた球体の魔法が割れ斬撃破が飛び出し、巨大な船の側面に穴が空いた。

 

 

正男「ふぅ、間に合ったみたいだな」

 

 

甲板に着地し、ルルンの無事を確かめる正男。

 

 

スペール「くそっ! こんな時に憎き正男が来るとは…」

 

 

ガクン…

 

 

 

 

 

巨大な船が傾き始めた。

斬撃破で空いた穴に海水が入り込んだ為、海中に沈み始めているからだ。

 

 


スペール「正男久し振りと言いたいところだが、お前のせいで御自慢の船が台無しだ!」

 


正男「そうだな、どうやら周りの船も騒いでるみたいだ」

 

スペール「くそっ! 奴等の船か…」

 

 

帝国軍に敵対する船団が沖合から救援で駆け付けに来ており、殆どの敵船は砲弾の雨で沈められた。

スペールが率いる帝国軍の船団はあっという間に不利に追い込まれた形だ。

 

 

スペール「くそっ お前のせいで滅茶苦茶だ!」

 

 

捨て台詞を吐くと、転送魔法でその場から消えた。

 

 

ルルン「有難う、正男君…」

 

正男「礼はいらんさ! 取りあえず、この船から降りよう」

 

 

ルルンとスペールの戦いは正男が乱入する形で終結。

巨大な船に用が無くなった後、二人は海へ飛び降り、マシュリンが待つ小さな船に向けて泳いで行った。

 

 

 

 

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〜 暗黒竜神帝国軍・城内部・王座 〜


アクアリアスで自軍の船群が撃沈される光景を黒い水晶から発する映像で映し出された。

逆転劇を見たマリネは絶句し、口が小さく開いた。

マリネの傍で瞬間移動魔法による光が生じ、そこからスペールが現れる。

 

 

マリネ「ほとぼりを覚ますには至らなかったわね」

 

 

マリネの問い掛けに反応せずスペールは近くに置いてあった椅子を蹴り上げた。

正男の乱入等で物事が進まなかったという苛立ちが募っていたようだ。

 

 

マリネ「みっともないわね・・・」

 

スペール「・・・ところでフレイム国はどうなっている?」

 

 

鬱憤を晴らし終えたスペールは冷静を取り戻し、マリネに状況を聞き出す。

 

 


マリネ「今、攻め込んでいる途中だわ」


スペール「そうか・・・。 二つの国の制圧が失敗しても、

愚かな人類にとって偉大と言われる国を攻め滅ぼせば、恐怖への第一歩になるだろう」

 


マリネ「でも、それも失敗したら?」

 

スペール「心配ないぜ。アクアリアスからその国までは距離は大分遠い。

全速力で走っても、アイツと戦う事がなく事を済む筈だ」

 

マリネ「時間との戦いで勝利を刻むのね」

 

 

 

 

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〜 アクアリアス・商店街 〜

 

再び正男達の視点に戻る。 

アクアリアスでの戦いを終えた正男は一旦マシュリンとルルンの元から離れた。

一人になった正男は今、商店街にいる。 目的は食糧の調達、冒険には飯が欠かせない。

 

だが戦乱を終えた直後なので、商品が置かれているものの、店員はどの店も居なかった。

火事場泥棒をするような真似はしたくないと思った正男はカウンターに金と

『食糧を貰うので、金を置いときます』というメモを置き、申し訳なさそうに食糧を頂く。

 

 

???「中々良い気遣いじゃないか」

 

 

横から声を掛けられた正男は声の方に振り向く、そこに白いローブを見に包んだ初老の男性が立っていた。

 

 

???「君が正男君だね? かつてゼロス達と渡り合った伝説の男」

 

正男「・・・お宅は?」

 

初老の男性の名はジェルファ。 多くの国々が集う国家連合みたいな組織の一員。

身分が相当高く、世界を動かすほど影響力の強い人物として知られている。

また、魔法がマシュリンより遥かに超える程、俊才の持ち主でもある。

 

因みに"国家連合みたいな組織"とは現実で言う国際連盟と思って頂ければ良い。

 

 

ジェルファ「君をこの世界に招かせたのはこの私だ」

 

正男「それもお宅が?」

 

ジェルファ「何せ、君は選ばれし者だからな。 何故、選ばれたのかは君でも明白であろう」

 

 

正男がこの世界で転移したのはジェルファだった。

ジェルファは暗黒竜神帝国軍の侵攻を食い止める為、高度な召喚魔法を用いてこの世界へ呼び出されたのだ。

 

 

ジェルファ「色々策を探している内に君の存在を掴んだ訳なのだよ」

 

正男「お得意の魔法で俺の存在を知ったのか」

 

ジェルファ「君に頼みがある。 今、フレイム国は帝国軍によって強襲を受けている。

それを君に食い止めてもらいたいのだ」

 

正男「別に言われなくても。 お連れさんと一緒にそこに行くけどな」

 

ジェルファ「そうか、それなら良かった。 でも素手で挑むには心細いであろう。

ほれ、あそこの武器店にある盾と剣を持っていったらどうかね?」

 

 

ジェルファの指差した先にある武器店には多くの剣と盾、鎧が並べられていた。

 

 

ジェルファ「ほら例えば、ドラゴンの素材で出来た盾と剣があるじゃろ。

アレならば より上手く より早く戦える筈だ」

 

正男「お気遣い有難いが、それでも俺は素手で十分だ」

 

ルルン「あっ そんなところにいたんだ!?」

 

 

二人の会話を余所に、マシュリンとルルンが迎えに来てくれた。

この時点でジェルファという名高い人物がいた事と、正男と親密的に話していた事から

二人は少々驚いていたようだ。

 

その後、三人はジェルファの転移魔法でフレイム国へ転送された。

 

 

ジェルファ「ふっ、正男という男を知って良かったわい。 これで上手く、そして早く収まる事だろう」

 

 

ジェルファの表情には何処か不気味そうに漂っていた。

 

 

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