激闘の末、浩二に敗れたギルティアは床に膝を付いた。
ギルティア「うぐっ…。 大した注目もなく、目立った活躍もなく、影の薄い存在がブランクを
空いたにも関わらず俺を平伏すとは…。 ふっ…、約束通りだ。 施設を明け渡そう」
浩二「僕を恨み、二度も敗北した君が僕に悪足掻ぎはしないのか…?」
ギルティア「全く悔しくないとは言わんぞ。 俺達を散々振りました、利己的な大人共と比べりゃ、この程度の悔しさは大したことはねぇ。
…それに、俺は予感する。 兄弟共々、泥を纏う事を…」
浩二「…?」
薄く笑いながら、肩をすくめるギルティア。
ギルティア「敵であるが言っておこう。 挫けるなよ…」
そう告げると、ギルティアは倉庫から立ち去って行った。
二度も敗れたギルティアが何故、ここまで悔しくなく、まるで兄弟の行末を案じるような台詞を出したのか…?
浩二「やっぱり彼は好きで悪人になりたくはなかったんだ…」
資材倉庫の奪還を済ませた浩二は、建物を出て、敷地外の外へ出る。 外では隊長格と思しき人物が自分を出迎える形で待機していた。
???「お待ちしておりましたよ。 浩二さん」
浩二「君は…?」
???「えぇ…、私はこういう者です」
その人物は浩二に名刺を渡した。 名刺には隊員の衛星開発会社の私設部隊隊長の海吉と記されていた。 浩二に話し掛けている人物こそ海吉だ。
浩二(海吉か…。 兄さんから聞いた事ある)
海吉「そして、貴方の兄にも劣らぬ実力で現状を打開させて頂いた事に感謝します」
お礼を伝えに来ただけのようだ。 浩二は感謝のやり取りだけで済ましてその場を後にしようとしたが…。
海吉「貴方達と我々における今の状態では脅威に対抗する事は困難を極めます。 非常に恐縮なところで御座いますが、どうか我々と更なる協力をお願いできないでしょうか?」
海吉が深く頭を下げた。 会社との繋がりを深めたいようだ。
浩二(あの会社と…、きな臭いけどこの人を見ると…)
海吉の誠心誠意ぶり少し迷った。 そして迷った結果が…
浩二「まぁ話だけはしておくよ」
海吉「そうですか。 ありがとうございます。 では、この後、社長との話がありますので、どうぞヘリへ」
浩二「はい?」
海吉に促されるまま、用意したヘリに乗り込む羽目になった。
…そして数分後
ヘリポート…、駐車場に着陸。 浩二はヘリから降りた。 周囲を見渡すと、多数の装甲車や武装車両、大勢の警備隊員がおり、どこか物々しい雰囲気だった。
浩二と海吉が歩いた先は高級ホテル…、このホテルは衛星開発会社が所有しているものだ。
浩二「ホテルで待っているのか…」
海吉「会社のビルは狙われやすい事もありますからね…。 さぁさぁどうぞ」
ホテルの自動扉を抜けると、ひんやりとした空調の風が頬を撫でた。
浩二と海吉は、磨き上げられた大理石の床を踏みしめながらエントランスを進んでいく。二人の視線は自然と奥のエレベーターホールへと向けられていた。
海吉「エレベーターはこちらです」
海吉が小声で呟き、浩二は無言で頷いた。 社長が待つ部屋へ向かうべく、二人はエレベーターのあるエリアへ足を踏み入れる。 だが、ふと低い声が響いた。
???「エレベーターで上がっても誰もいないぞ」
海吉「あらら、下におられたのですね」
浩二「…?」
声の出所は一階のカフェだった。 カフェに入る浩二と海吉。
視線を向けると、薄暗い照明に照らされたカウンターの一角に、ひとりの男が座っている。
黒い長袖のジャンパーに、黒のシャツ。作業用ズボンに、耳へと伸びる通信機付きの黒いキャップ。
洒落た雰囲気から切り離されたような存在感で、その姿はまるで異質さを放っているようだ。
海吉が一歩前へ進み、声を落とす。
海吉「…社長。 ここでおくつろぎになられていたのですね」
男は口元にわずかな笑みを浮かべ、軽く頷いた。
社長「まあな」
浩二「( ゚д゚)ポカーン」
この男が社長らしい…。 高級スーツとか着てそうなイメージとはかけ離れている。 そして、カウンターの隣席を指し示す。
社長「まっ、まずは隣の席に座って話をしよう。 肩の力を抜け」
促されるまま、浩二は硬い表情のまま席に腰を下ろした。
浩二の席のバーの上にはコーヒーが置いてあった。 まだ暖かい…。
コーヒーの縁を指でなぞりながら、社長はゆっくりと口を開く。
社長「弟でありながらその活躍ぶりにあっぱれだ。
だが、この一件は全体ではほんの一部分に過ぎない。 早期の事態収束の為、これからも協力してほしい」
浩二(あまり良い思いしない…。 でも、ここは噂と切り分けて協力するところは協力するしかない…)
浩二は眉ひとつ動かさず、無表情のまま返事をすることなく、その言葉を受け止めた。
心の奥底では不本意だったが、ゼイターが簒奪した軍事衛星による都市破壊という由々しき事態に直面した以上、断るという選択肢もまた存在しなかった。
彼は会社にまつわる悪い噂を耳にしている。しかし、それをわざわざ口にすることはなかった。
悪い噂が流れても、利害が一致する以上、この申し出を受け入れる。 禍々しいが心の内に納める浩二。
すると、社長の鋭い視線が浩二を射抜いた。
社長「まぁ、そういう反応は当然するよな。 …お前がこの会社を良く思っていないのは分かっている。それは仕方のないことだ」
言葉の端に奇妙な余裕を漂わせながら、社長はコーヒーを持ち上げ、会社の闇を語り始めた。
社長「君が思っている悪い噂…、例えば…、そうだな。
街の役人を取り込んで星園の丘のある街の市政を裏で操った。
抗議活動をする市民達に会社の警備ロボットが暴走を起こして射殺事故を起こす。
軍事技術の流用。
会社が出資していた、技術系の大学でロボットの暴走事故で適切な調査はせず、開発者であった一人の学生を追放。
もっとあるが…、まだ言おうか?」
社長の声は淡々としていたが、その言葉のひとつひとつが、黒い糸のように浩二の胸に絡みついていった。
表には決して出ることのない噂を、躊躇もせず語るその姿に、浩二は背筋を冷やす。
浩二「…もういいですよ」
思わず低く吐き出すように言った。 社長は一瞬目を細め、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。
社長「そうか…。 浩二、君の考えは否定しないし、そう思っても構わない。 何せ民主主義は大事にしないといけないからな」
皮肉なのか本心なのか、掴みどころのない口調だった。
やがて社長は、コーヒーをカウンターに置き、すっと立ち上がった。
社長「これから防衛拠点の視察に行く。 浩二はどうする? ホテルに泊まっているか?」
浩二「家に帰ります」
社長「そうか…」
不意に浩二の方を振り返り、付け加える。
社長「それと、コーヒー代は払わなくていいぞ。ここは俺の奢りだからな」
海吉「では私も社長と同行するのでこれにて…」
社長と海吉はカフェから去って行った。
浩二(一体何を考えているんだ…?)
浩二は無言のまま、深く息を吐き出した。社長の行動は相変わらず不可解で、つかみどころがない。
その背中を見送りながら、彼は静かに溜息を漏らすと、バーの上にコーヒーの代金を置き、ホテルを後にした。
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