軍事衛星による都市破壊と、
脱走者であるヘイックの部下ギルティアとジェルンの倉庫占拠など幾度の大事件から数日後…


正男と浩二、ASは自宅にいた。 正男とASはテーブルの前の椅子に座り、浩二はお茶を作っていた。


…正男は退屈そうに寝転び、その様子を浩二は呆れるように言う。 それがいつもの日常であった。


だが、そんな日常は遠のいてしまった。 ゼイターと海次が仕掛けた一件やゼット等の悪党の脱走を境に、正男の心はどうも落ち着かない様子。 
世間を騒がす事件は一旦収束した。 だが、奴らの存在がいる限り、何を仕掛けるのか分からない。 
いつか来る次の出来事に常に正男の胸をざわつかせている。


正男が無言を貫く中、浩二は出来立てのお茶を湯呑に注ぎ、テーブルの上に置いた。


浩二「兄さん…、お茶でも飲んで落ち着きなよ」

正男「あぁ…、みっともねぇところを見せてしまったな」

AS「僕も頂きます」

熱々のお茶が入った湯呑を手に取り、ゆっくりとと飲む正男。 ASは魔法の力で湯呑を浮き上がらせ、ゆっくりと飲む。

正男「へぇ…、そうやって飲むんだな」

AS「人間から見たら違和感ものですね」

浩二「そうやって飲む事は出来るけど、力が使えない時はどうするんだろう…?」

AS「その時は人間の姿に変えて出来るようにします」

正男「ふ~ん…」

正男・浩二「ん!? Σ(゜ω゜)ビクゥ」

AS「初耳でしたか…」


ASの簡単な説明によると、最初は星の姿であるが、人間の姿に変える事も出来るとの事。


正男「そういや…、キロル女王やキラルドも人間の姿をしていたな。 合点がつく…」


ASも人間の姿に変えられる事という衝撃で堅苦しくなっていた正男の心を和む事が出来たようだ。 
微笑みながらお茶を飲み干すと、浩二に向けて口を開いた。


正男「浩二…、社長に会ったんだろ?」

浩二「うん」


浩二は正男とASに社長の事を話している。


正男「俺達が思う黒い噂をペラペラ話し、浩二が不快感を感じている事に理解しながら協力を惜しまない。 どこからあんな柔軟さが出て来るんだ? 最早は掴みどころの見えない男だ」

浩二「兄さん…、掴みどころの見えない男という言葉は僕の頭の中でも浮かんでいる事だよ」

正男「マジか…」

AS「性格が違っても、考えている事は一致しているんですね」

正男「俺達兄弟の繋がりが深いのかもしれんな…」

浩二「あの社長や海吉は何を考えて僕たちにアプローチを掛けているんだろう」


正男は腕を組み、天井を見上げる。


正男「さぁな…、俺ですら分からんよ」

AS「大変になりましたね。 今までは事が爽快に進んでいたのに、今は複雑に絡んでいて中々進みませんね。
おまけにそういう人物と関わり続けなければならないのですから」


二人のやり取りを、隣に座るASはじっと聞いていた。ASは穏やかな声で口を挟む。


浩二は苦笑し、視線を落とした。


浩二「正直思ったけど、兄さんばかり目立って、僕は兄さんだけずるいやと思っていたんだ。 僕も頑張って兄さんのように注目を思っていた。 
でも、今はどうだろう…。 少し兄さんのようになったけど、何だか責務とかプレッシャーとか背負うものが大きすぎてさ…、それに怪しい噂が立っている社長に目をつけられてさ。
もう正直、胃が痛くなったもんだよ」

AS「良くも悪くも注目を浴びたんじゃないですか?」

浩二「よく考えれば…。 だろうね」

正男「浩二、俺も正直、胃が痛いよ。 ゼイターと海次や社長の事で不安が山積している。 
この先、何が起こるか俺も分からない。 だが、唯一分かる事はますます状況が大変になる事だ…。 
でもな…、それでもスケールは上がったが世界を守る役目がある以上、やらなければいけないんだ」


浩二は真剣な顔で頷いた。


浩二「そうだな。 こんな事で心が重くなってはいけないね。 頼りになるよ」

AS「僕もレインボーロッドが依然奪われたままで不安が大きいですが、
ここは正男さんや浩二さんのように張り切らなければいけませんね」

正男「無茶はするなよ」

浩二「そういえば、君たちの国の宝であるレインボーロッドは海次に握られているよね。 どんな杖なの?」

AS「そういえばお二人ともレインボーロッドについて余り話してはいませんでしたね…」

正男「どんな魔法でも出せちゃう神聖な杖という説明だけは覚えている」

AS「では説明いたしましょう。 僕たちが住む国の一番の宝であるレインボーロッドは繁栄と栄華、希望の象徴であります。

杖を握り心を込めて唱えれば瞬時に発動します。 
具体的には発動炎や水などあらゆるを自在に操ったり、大地を割って山を築いたり、風を操って天候を変えることさえできます。 
植物といった生命体を生み出す事も可能ですし、持ち主の身体能力を飛躍的に強化したり、建造物を築くことも……」


正男は驚いたように目を見開いた。


正男「すげぇ…、もう万物を操れる神みたいになれるじゃねぇか。 やりたい放題だな」

浩二「こりゃあ、ゼイターと海次に奪われる訳だ」

AS「ですが…」

正男・浩二「?」


ASは一呼吸おき、再び口を開く。


AS「…万能に見えても、決して完璧ではありません。
例えば記憶の改変や、心を操作するような心理的な魔法。あるいは身体そのものを根本から変えるような魔法。
それらは“魔法に対する抵抗力”や“身体能力が著しい者”には効きにくいのです」


浩二は少し考え込み、ふっと笑みをこぼした。


正男「どんな魔法でも出せるが、思い通りの結果にはならない事があるんだな…」

AS「そうですね」


ASは真剣に続ける。


AS「それに……もっと大きな問題があります。レインボーロッドの力を最大限に引き出し、
この世の理を変えるような魔法を使った場合…、
使用者の身体に強い負担がかかります。 場合によっては、命を落とすことさえあるのです


居間に重苦しい沈黙が落ちた。正男は目を伏せ、静かに呟く。


正男「命を削ってしまう希望の杖か…」

浩二「下手したら、ゼイターが驚くような魔法を出しても、ピンピンしてしまいそうだね。 これは、何としても取り返さなければらならない」

正男「悪用する可能性の高い道具を何故、国の象徴として作り出したんだ…?」


正男はしばらく黙って考え込んでいたが、やがて疑念を抑えきれずに口を開いた。


正男「…AS、一つ聞いてもいいか? そんな、悪用する可能性が高い道具を……どうして国の象徴として作り出したんだ?」


ASは目を伏せ、答えを探すように口を開きかけた。


AS「それもお二人ともには説明しなければいけませんね。 …元々、あの杖が生まれたのは…」


そのとき、突然、家の電話がけたたましく鳴り響いた。居間の空気が一気に切り替わる。


正男「…こんな時にか」



少々イラっとしたが、正男は冷静に立ち上がり、受話器を手に取った。


正男「もしもし」


海吉の声「正男さん! 私です、海吉です! 星園の丘にゼイターの勢力が再び襲撃を仕掛けてきました!」

正男「ゼイターと海次だと…?」

海吉の声「はい。社長や自治体の要請を受け、私も動いております。しかし…、私どもの戦力では撃退が叶わず、
このままでは全てが崩れます。正男さん、どうか協力をお願いしたく存じます!」

正男の胸がどくんと高鳴った。思わず奥歯を噛みしめる。 


海吉は社長の部下…、あの会社は何を考えているのか分からない。 だが、ゼイターと海次が同時に現れているのなら、行かねばならない。


正男「……分かった。すぐに駆けつける」

海吉の声「感謝します」


短く告げて電話を切った。


浩二が身を乗り出す。


浩二「兄さん! 今の……」

正男「星園の丘だ。ゼイターと……海次が出てきたらしい。海吉からの要請だ。怪しいが、行かなきゃならない」


正男は表情を引き締める。


正男「急がなければ……!」

ASが立ち上がり、力強く言った。


AS「私も付いて行きます!」

正男「…ああ、頼む」


正男は頷き、玄関へと向かった。


正男「浩二…、星園の丘へ行っている間に何処かでまた別の事件が起きるかもしれない。 
その事を踏まえて家に待機してくれ」

浩二「…分かった。 兄さん、気をつけてね」

正男「行くぞ、AS!」

AS「はいっ!」


正男とASは玄関の戸を勢いよく開け、夕焼けの風の中へと飛び出した。
残された家の中には、湯気の消えかけた茶と、留守を託された浩二だけがいた…




戻 る