ストーリー

 

~ ??? ~

 

電子空間の様な世界から急にオフィスの様な空間に移る。

雰囲気が戻ったなと感じながら進んでいると,通路の横に多数の台座が横一列に並ばれていた。

力彦が台座の前を横見しながら歩いた時,彼の足は止まった。

 

彼は再度,自分の視界を台座の方に移す。

台座の上にはある物が鎮座しており,それが何なのか力彦はハッキリと分かった。

 

 

力彦「おい,温泉街で見たロボットと同じじゃねぇか!?」

 

 

そう,多数の台座の上に設置されていたのは

温泉街を襲撃したあのロボット共だった。

 

 

力彦「成程な奴等は此処で作り出したって訳か」

 

 

当初,彼の想像ではあのロボット共は和郎が謎の力によって生成されたものだと思われていた。

しかし実際は此処で製造され,それを温泉街へ転送させていたようだ。

 

 

力彦「和郎はやはりミスリードか…」

 

 

和郎が事件の首謀者と思われたが,今回で操り人形に過ぎないと確信する。

そう呟きながら,彼は再び前方に向けて歩み出す。

 

 

 

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~ ??? ~

 

道中にある長い階段を登り終えると,そこに鉄製の扉があった。

彼がそれに近付くと扉が開き出した。 何も触れずに開いた為,これは自動扉だと認識する。

開いた扉を見て,彼はすかさず扉の奥へ突き進んで行く。

 

部屋は大理石の床で覆われており,部屋の奥には木製のテーブル,その後ろに大きめの椅子が置かれいた。

そして,その椅子には男が座っていた。

 

座っている人物は両手を頭に付けており,素顔が見えず,常に暗い印象を保ちつつある。

だが,その人物が力彦に『待っていたぞ』という雰囲気を表わしている。

 

 

???「待っていたぞ,力彦」

 

 

男が力彦に声を掛けると,下に向いていた顔を上げた。

力彦がその男に近付いて対面を果たす。

 

 

力彦「てめぇが事件の黒幕か?」

 

???「その通りだ。 この活動を主導したのは私にあり」

 

力彦「成程,和郎を操ったのも含まれるんだな」

 

???「如何にも,その通りだ」

 

 

この人物こそ和郎を洗脳させた上,

ロボットを送り込んで下山市街を混乱に陥れた張本人だ。

 

 

力彦「何でだ? 何で,こんな馬鹿げた事をしやがるんだ

 

 

エルズ!

 

 

それに,てめぇは行方不明になっていた! 」

 

 

 

 

力彦をその男を知っていた。 彼の名はエルズ。

とあるIT会社の会長で,RB技術工芸大学の出資者。 そしてその大学で特別教授として講義を行った事がある。

しかし,RB技術工芸大学で忌々しい出来事が起きて以来,彼は行方不明になっていた。

 

 

エルズ(??)「率直に言おう,どんな努力を積み重ねてもその分の対価は得られない。

寧ろ,ますます酷くなっていく惨めな社会に嫌気がさした」

 

力彦「…?」

 

エルズ「世の中をより便利な方向へ築かせているのは,技術者や科学者等,

常人と並外れた知識を得た者が成り立っているのだ」

 

力彦「ど素人でも分かるよな。 …今,彼らを尊敬したよ」

 

エルズ「彼等を華やかな存在だと思っている者が大勢いるが,現実は違った。

 

 

 

 

それなりの対価とは程遠い低額の報酬

 

 

 

 

利益ばかりを追い求める経営による翻弄

 

 

 

 

折角作り上げた高度な技術を実用性が無い理由で切り捨て

 

 

 

 

数え切れぬ負の連鎖が彼等に襲いかかって来たのだ。

この様な技術者に報われない光景に世間は騒いでいるが,騒ぐだけで何もしてくれなかった。

そう続いていく内にさらなる悲劇が重なった。

 

 

 

 

次世代を担う存在として期待されていた男,

デイズ・バージー

 

 

 

 

彼はRB技術工芸大学の学生で優秀な成績を収めていた。 

だが,利益と名誉ばかりを求めていた大学によって切り捨てられ,彼は絶望し学内で反乱を起こした。

そして彼は暴走した危険兵器に殺された。 この悲惨な出来事は誰もが痛感している」

 

力彦「その後にアンタは行方不明になった。 死亡説まで出ていたが,まさかここにいるなんてな」

 

エルズ「私は今の現実に失望している。 だから,最も高度な技術で異空間を作り出し,そこで身を潜めた。

現実を変える為の環境を作り出す為に」

 

力彦「そしてその一つとして,どうやったか知らんが和郎を操らせてロボットによる街の破壊活動を行わせた。

UNTはそこで団体旅行の宿泊先だったからな。 知識ある奴が報われぬ怒りをぶつけるには格好の的になる」

 

エルズ「勘が上手く働いているようだな。 全くその通りだ。 UNTは技術系でありながら残念な企業に成り果てている。

そんな奴等が主導権を握れば溜まったものではない。」

 

力彦「だからこんな事をした訳なんだな…,アンタは満足してそうだが,俺は何も思っちゃいない。

何せ関係ない人まで巻き込んでいるからな」

 

エルズ「彼等にとっては気の毒だが,あれは仕方なかった。 成し遂げる為にはどうしてもこうなるんだよ」

 

力彦「ふざけんじゃねぇ!」

 

 

今の人を巻き込む事に躊躇いのない事を言われ,ふっ切れた力彦はエルズの机を両手で叩きつける。

それを見かねたエルズは力彦に向けて片手でパッと開いた。

 

 

力彦「うおおっ!」

 

 

すると突然,力彦はエルズの前から吹っ飛ばされる。 

エルズの片手から見えない衝撃波が放たれたのだ。

 

 

エルズ「…あの時,君に会った事がある。 現実に失望した者の同士として迎え入れたかったが,

君の心境を見て適わなかったようだ」

 

力彦「誰がてめぇなんか組むか。 確かにガキの頃,アンタに会った。 少しは尊敬していたが,今は別だ。

それに俺は失望なんかしていねぇ!」

 

エルズ「どうやら自分の過去を背いている様だな。 復讐心を植え付ける為に今から語ろう」

 

 

エルズは力彦の過去を語り出す。

 

 

力彦は元々不良では無く,ある企業の幹部の息子で云わば御曹司であった。 ある企業とはそう“UNT”である。

父の下で何不自由の無い暮らしをしていた彼。

 

 

だが,ここで彼の人生の転落が訪れる。

 

 

 "ある事件" が起こり父は猛烈に追求され,

弁解の余地が無いまま懲戒解雇を受ける。 

 

 

その後,父が病気でこの世を去り,

母は精神的ショックで行方を晦ましてしまう。

 

 

彼は養育施設に預けられ,孤独の生活を送り事になった。

家族崩壊という悲劇であったが,これだけでは無かった。

 

 

中学校の頃,自分の過去の事でからかわれ,苛めを受けてしまう。

先生に気付いてもらえないままこの状態が続いた結果,

彼の鬱積した不満が爆発,自分を苛めた者を拳で殴打した後に

教室の窓を突き破らせて廊下へと放り投げた。

その後も椅子を投げつけたり,扉や黒板を破壊させ,

教室内を荒れさせた。

 

 

その後は和解で解決したが力彦は転校,

心に大きな傷を付けたまま卒業を迎え高校時代に入ると不良になる。

万引き,カツ上げ,原付バイクで真夜中の住宅地を大爆走と悪事を繰り広げるようになった。

特に酷いのが他校の不良との喧嘩だ。 

相手は大多数で率いていたが,彼は己の拳で一人残らず打ちのめした。

その事から,不良の間では彼の事を

『喧嘩の帝王』,略して『喧帝』と呼ばれ,ある意味伝説となる。

 

 

その後,彼は高校卒業後に電気工事士の資格を得て,自ら店を開き今に至る。

 

 

力彦「これ以上,喋るんじぇねー!!」

 

 

自分の過去を勝手に語り出すエルズに怒り心頭を発した力彦は再度,相手に殴り掛かり,

その後は拳と蹴りでの激しい肉弾戦が繰り広げるものの,エルズの超人級の拳法により,

攻撃がかわされ,逆にエルズの鉄拳に何十発も腹に殴打され,またしてもエルズの片手から衝撃波を放たれる。

 

 

力彦「ウオオオオォーーーー!!!」

 

 

力彦は苦痛の叫びが部屋中に響き渡る。

この時,凄まじい衝撃波の影響で上着が破け飛び,上半身の裸が露わになった。

力彦は跪き,両手を床に付いてしまった。

 

 

エルズ「"ある事件"は知識が無く身勝手な連中によって起こしたものだ。

その後も君は変哲の無い凡人に謂れの無い社会的迫害を受けてきた。  そんな奴らに怒りを抱いている筈だ!」

 

力彦「悪いけどよ…,心の傷はとっくに晴れているさ」

 

 

傷だらけになりながらも再び立ち上がる力彦。

それを見たエルズは呆れたと言わんばかりに首を傾げる。

 

 

エルズ「そうか力彦,君はそういう道を選ぶのか…,誠に残念だ。

最早,手段は選ばん。 君も和郎の様に考えを改めさせてやろう」

 

 

"力彦を洗脳させる" 

 

 

そう宣言したエルズは両手から電磁波のブーメランを召喚する。 これでエルズの戦力は一段と増した。

 

 

力彦「次はそうは行かんぜ…」

 

 

エルズの攻撃で実力差を思い知らされた力彦は,ここで巻き返しを図る。

彼の相手を倒す意気込みは徐々に増していく…