~ エルズが創造した電子空間 ~

 

力彦は半透明の生命体とこれまでにない戦い。 即ち,世界の運命を掛けた決戦を繰り広げているのだ。

生命体の強烈な攻撃に受けながらも彼は耐え忍びそして迎え打ち,相手の体力を削って行く。 …そして

 

 

力彦「漢の一撃を受けてみな!

 

 

 

 

ズドッ!!

 

 

 

 

彼の鉄拳が生命体の胴体を貫いた。

 

 

生命体「グオオォォォ!!!!

 

 

致命傷を受けた生命体は苦痛で唸り声を上げながら上へ上昇。 両手両足を広げ体全体に閃光が放った瞬間

 

 

 

 

ドオオォーーーーーン!!!

 

 

 

 

大爆発を引き起こした。

 

 

爆発が止むと,そこに生命体の姿は無かった。 彼の一撃で相手を消し去ったのだ。

危険兵器をも超える敵を倒した力彦は再び,エルズの方へ振り向いた。

 

 

エルズ「ついに倒されたか…」

 

力彦「エルズ,これで野望は立ち消えだな!」

 

エルズ「そうだな,認めない訳にもいかない。 だが,それで世の中は変わると思うか?

それが続く限り,私の代わりになる者が幾らでも現れるぞ」

 

力彦「そうなっちまう前に誰かが変えてくれるさ!」

 

エルズ「ふっ…」

 

 

エルズは尚も自分の理論を主張し続けたが,力彦の軽い言い返しに呆れ口から息を吹かす。

 

 

エルズ「過度な期待心で理想が消えてしまうとはな…」

 

 

ゴゴゴゴゴ…

 

 

野望が砕かれ意気消沈したエルズがそう言い放つと,その場が揺れ出した。

 

 

力彦「おいっ 何だ! 辺りが歪んでいるぞ」

 

 

二人のいる電子空間に所々に強烈な歪曲が生じ,やがてそれが一気に全体にまで広がっていく。

 

 

エルズ「どうやら,君が倒した生命体が爆風と共に放出した強力なエネルギーと電磁波によって

この空間を保つ均衡が一気に崩れ始めたのだろう」

 

力彦「おいそれって,俺がそいつを倒した事であーだこーだでこの空間が滅茶苦茶になったという訳かよ。

やべぇぞエルズ! 急いでこっから抜け出すぞ」

 

エルズ「駄目だな。 全てを失い,生きる意味を見出せなくなった私に余生は無い」

 

 

そう言いながら力彦に向けて片手を翳すエルズ。 すると,力彦の身体に宙が浮き始める。

 

 

力彦「おいっ どういう事だ!」

 

エルズ「君には呆れたが,心の何処かで秘めれた闘志がある様だな。

その根性で変えれるかどうか,あの世で静かに見てみる事にしよう」

 

力彦「馬鹿な事をするなっ! アンタも一緒だ」

 

エルズ「さらばだ,力彦君」

 

 

お別れの言葉を告げ,手に力を込めるエルズ。

 

 

力彦「エルズウウウゥゥーーーー!!!

 

 

 

 

力彦は状態から抜け出そうと必死にもがくがどうにもならなかった。

徐々に浮いて行く彼は,ついに上で待機していた黒い穴に吸われてしまった。

 

 

その場に佇むエルズに向けて手を伸ばしながら…

 

 

 

 

 

 


 

 

~ 城外・庭園 ~

 

???「力彦さん、力彦さん。 起きて下さい!」

 

 

気絶している力彦の身体を誰かに揺さぶられる。

 

 

力彦「エルズッ!!!」

 

 

意識を取り戻し,急に起き上がる力彦。

彼を起こそうとした誰かは,余りの急な起き上がり方に心臓がビクンと震えながら驚き,尻餅を付く。

 

力彦は両目を擦った後,辺りを見回した。 周辺は城の外の庭園。

即ち,元の世界に帰還したのである。

 

 

???「良かった。 目を覚ましてくれて…」

 

力彦「おっ,あの時の職員か? 最後まで生き残ったみたいだな」

 

職員(???)「そんなぁ,大げさですよ」

 

 

悪ふざけに笑って応える職員。 それを見た力彦もそれに釣られ,笑いだす。

 

 

職員「貴方の連絡が来なかったので,此処まで来たんです。

まさか,力彦さんが池の側で気絶しているなんて…」

 

力彦「あぁ何でだろうな,アイツを倒したっていうのに,こんなところで熟睡するとはな」

 

職員「ところでその人は何処に?」

 

力彦「あそこだよ,あそこ」

 

 

力彦は指差した。 その先に和郎が地面で仰向けの状態で倒れたまま。

どうやら未だに意識を失っている様だ。

 

 

力彦「そうだ。 アイツがどうやって操ったのか色々探ってみるとするか」

 

 

二人は和郎を身体ごと回転させながら身体確認を行う。

すると,背中にある物を発見する。

 

 

それは緑色の粘着物…

 

 

和郎の背中に緑色の粘着物が貼り付けられていた。 力彦がそれが何なのか直ぐに分かった。

それは人工頭脳入りの小型装置が埋め込まれたスライム。

エルズが造り出した電子空間に保管された物と同類だった。

 

どうやら,エルズはこれを使って和郎を操っていたのだ。

 

 

力彦「( エルズ…,理想の為とは言えそれは無いだろう )」

 

職員「これを取っておこう」

 

 

職員は和郎の背中にひっついていたスライムを剥がし,その辺に軽く放り投げる。

力彦は動くかもしれないと思い,それを片足で踏み潰す。

 

 

力彦「これで安心して病院へ運ばす事が出来る」

 

 

そう言うと,二人で和郎の肩を組んで持ち上がらせる。

 

 

職員「そういえば力彦さん,何故貴方は上半身,裸なんです?

 

力彦「生死を掛けた戦いには偶にこうなるのさ」

 

 

力彦は笑ってそう答える。 

実際は電子空間で,エルズの反撃により上半身の服が破け散った。

その話を付け加えたかったが,幻想的で誰も信じてはくれないだろう。

 

力彦はそう思い,この様なジョークを飛ばしたのである。

 

 

力彦「さぁ朝日を見ながらこの山を降りようぜ」

 

 

二人で和郎を運びながら,市街地に向けて下山を開始する。

 

 

 

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下山を終え,市街地に辿り着いたところで駆け付けに来た警察に保護された。

残存ロボットの掃討,被害状況の調査や行方不明者の捜索等は国家自衛軍と警察が行う事になった。

 

 

事件の首謀者であると思われた和郎に関しては力彦と職員の有力なの証言と根拠により疑いは直ぐに晴れた。

力彦は事の顛末を語った。 ダメ元で話した電子空間とエルズの部分は当局から理解が得られなかった。

 

 

そして肝心である謎の暴走ロボットは嘗て,

テロリスト等の武装勢力から寺社等の有名建造物や有形文化財を守衛する目的の為に,

国会自衛軍とRB工芸技術大学の連携の下で開発されたものであると判明した。

だが,学内で起きたあの事故の影響がこの計画も含めて頓挫される。

データは学内のネットワークで厳重なセキリティを施した上で保管されていたが,

学内で起きた暴走ロボット事件により外部へと流出,それがエルズの手に渡った。

 

 

遺産を守る為に開発されたロボット達が,

遺産が恵まれている下山市で破壊活動を行うという

皮肉な結果を生んでしまったのである。

 

 

やるべき事が無くなった力彦は職員の別れを告げ,下山市街を後にした。

事件直後に破壊された彼の自家用車は,損害保険で出た金で買い替えるという。

 

 

 

 

 

第二の暴走ロボット事件はこれで終結した。 しかし,エルズが言うように,

科学者や技術者を嗜める様な扱いが何処かで起きているそんな世の中では再び同様の出来事が起こると予想されている。

機械による悲劇が繰り返さない為にも,良識のある人達が今,この現状を少しでも変えようと動きが出始めている。

 

 

 

 

だが,その些細な動きが科学界と科学を知らない外部との

熾烈な争いが刻々と近づいている。

 

 

 

 

THE CYBER ERROR 

 

THE END

 

 

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