市役所を壊しに来たのであろう、片手にアームを付けたヘルメットの巨人。
屈強な身体で並の攻撃では受け付けないのかもしれない。
だが少年は敵の膝を見た。
特に膝の裏側だ。 どんなに強靭な肉体を持とうが、関節の役割を発揮させる以上、
裏側は柔らかくなっている。
それに内側には血管や動脈、神経が通っている。
人体の急所の一つとも言われる、あの部分にスコップで刺せば巨人に致命傷を与えられるに違いない。
だが相手は人間ではなく、謎に満ちた化け物だ。
人と同じ構造であると確証した訳ではない。
少年の考えは仮定に過ぎない。
だが浅はかかもしれない仮定であっても、検証する価値はある。
実行に移したいが、巨人のスピードは思った以上に早い。
どうすれば裏側に廻り込めるか方法を模索しようとする少年。
だが、ここで援軍が来た。
上の階の窓から中で出会った警官隊がライフル銃で援護したのだ。
ライフル銃から放たれる弾が狂人に着弾。
怒った巨人は建物に振り向いた。 この行動が少年に好機を与えた。
少年はこの隙を逃さず、巨人の膝裏に強烈なスコップ突きをかます。
巨人は唸り声を上げ、跪いた。
少年は空かさず巨人の身体に何度もスコップで力一杯に叩きこんだ。
そして、ようやく巨人は動かなくなった。
市役所での戦いは幕を引いたのである。
「まさか貴方に助けられるとは思っていなかったわ…」
戦いを終えた少年は今、市役所の中にいる。
市長を初め住民達や警官隊達が集まっている。
「驚いたよ。 君は元いた街で戦術を学んでいたんだね。 しかし…」
ライフルで援護した警官隊の一人は少年を褒めるものの、表情が暗くなり俯き出した。
「…街で何が起きたか話そう」
まるで切り替えたかのように顔を上げ、本題に入ろうとした警官隊。
少年に対して何か言う事があったのだろう。
この街で起きている状況はこうだ。
自分達を襲う謎の怪物の群れは北部の山から現れ、一部は地下下水道から湧き出た。
少年が昼寝をしている間にだ。
怪物が現れてから、市民を襲い命を刈り取った。
過疎化が著しいこの街の治安規模は大きくない。
僅かな人員で抵抗にあたるが、怪物の能力に一気に押され、
生き残りの市民と共に市役所の中に避難。
外部へ援軍要請を図ったものの、この時は大規模な停電で通信設備が
使用出来なくなり連絡手段が絶たれている。
それに外に出掛けていた幸江が帰ってこないのだ。
携帯で連絡を取ったものの、反応は皆無。
聞けば聞く程、背けたくなる事柄に少年の表情は固くなる。
「…そこでだ。 君は俺と一緒に発電所に付いて来てくれないか?
発電所の機能を回復させれば、外に繋がる筈だ」
少年に協力要請する警官隊であったが、どこか気まずそうな表情だった。
心の内では安全な場所で待って欲しいと言いたいのであろう。
他に選択肢は見当たらない。
少年は警官隊の依頼を承諾した。
過疎地の街で少年の戦いは一層激しさを増す。