ブゥン! キュイィン! キュイィン!


目に見えない速さに空気を切り裂く回転刃。
その腕で少年に俊足で何度も切り掛かる男。

幸江はこの世を変える人と云われていたが、まさにダムの上での戦いで実感出来る。
間合いを詰めれば全力で切りに掛かられるし、引き下がればビームの餌食。

あの時から幾度の危機を根性で乗り越えてきた。
だが、今まで戦ってきた強敵を上回るパワーとスピードが少年に反撃の機会を与えない。

考える暇もないまま、防御と回避を取らざる得ない。
このまま体力が減衰して、男に攻撃を受けやすくなってしまう。

あぁ…、もうここまでか。




その時、空から砲弾が飛来し、男の身体に着弾する。
天に祈ってはいなかった少年にとっては驚きの展開。
砲弾が来た方向に向くと、数機のヘリコプターがダム上で浮上していた。

その内の一機の中に守がロケットランチャーを構えていた。
彼が援護してくれたのだ。

「今だ!」

守の掛けられた言葉に迷うことなく動き出す。
攻撃を受けた男は邪魔をされたのか怒りながらヘリに振り向く。
その瞬間を待っていた。
少年はスコップを構え、不意に隙を作りだした男に猛スピードで接近。

力を貯め、スコップを勢いよく振りかざし…

男の頭部に叩きつける。 何度も、何度も、何度も…

直撃を受けた男はよろめきながら、腕を回転刃から銃型の形状を変え、少年に狙いをつける。
しかし、相当ダメージを食らったのか余りにも動作が遅かった。
少年はそうはさせまいと、男の上腕をスコップで俊敏に突く。
スコップの刃先が腕の筋肉と骨を一気に裂き、瞬時に切断。

攻撃手段を失った男は唸り声を上げながら突進する。

少年はスコップに力を注ぎ、再び振りかさず。
そして、男を頭を渾身の一撃で叩く!
少年の打撃による衝撃はダムの周辺に響いた。


ウガアアアアアアアアッ!!


頭部の半分を砕かれた男。 相当苦しんでいるようだ。
守という予想外の援護がなければ、勝つことは無かったであろう。


「アアッ…、アッ、ショウ、オマエ、おっ マえは…、ショウ…、か?」


意思もなく、闇雲に破壊をする男から発した人語。
空耳だと一瞬感じたが、空耳ではないと分かりだす少年。

何故、自分の名前を始めて会った怪物のような男に…?
問いかける気力もなかった。 知るだけでも不安に感じたからだ。

男はフラつきながら、横へ傾きながら歩きだす。
意識が朦朧としているのであろう。
そっちはダムの欄干だ。


うおおおおおおおおぉぉぉぉー-------っ!!


男はダムの欄干を乗り上げ、身体を逆さまの状態のままダムの真下へ落下。
落下する男の姿が小さくなる。
男の身体がダムの真下にある岩に直撃。

直後に大爆発が引き起こす!!

ビームを撃ち込むためのエネルギーが衝撃で暴発してしまったのだろう。
爆発による爆炎がダムの天端の上まで昇り詰める。
やはりあの男は怪物の中の怪物だ。 そう感じさせる。

男が爆散した時点で死闘は終わった。 


だが、しかし…


少年が立つダムが揺れだした。 
始めは小さな揺れであったが、徐々に激しさを増していく。 
先刻の大爆発でダムが耐え切れなくなったのか…?
ダムの割れ目から水が噴き出す。 一か所でなく、何ヶ所も…。 数秒ずつ増えていく。

激しい揺れが止まらず、ついに崩れだす。
少年は逃げようとするが、気が緩んだ故に遅れてしまう。


「こっちだ! 俺のヘリに飛び移れ!」


守が乗るヘリがダムの天端へギリギリの距離で詰めてきた。 
乗るように催促された少年はすかさず、欄干に足を掛け、力を振り絞って高く飛び上げた。 
そしてヘリに移った。

数秒後、ダムが轟音を立てて一気に崩落。
溜め込んでいた湖の水が一気に街の中心部に向かって、波を立てながら流れていく。

街には市役所があって、そこに避難した人達がいる。
動揺した少年はヘリの外へ身を乗り出そうとしたが、守に引き留められる。


「心配ない! 市役所にいた人たちは既に外へ待避させている。 君は落ち着いて、そこで休んでくれ」


避難していると聞いた少年は気が納まった。
鶴来山市での惨劇は街の洪水という災害と引き換えに終息。
たった一人だけの戦いを終えた少年は機内の壁にもたれ、目を閉じ、眠りに落ちた。









数ヵ月後…。 少年が住んでいる街にて…


少年は噴水のある公園のベンチで座っていた。 
手に持っているスマホには鶴木山市に関する情報が掲載されていた。


あれ以来、鶴木山市で起きた事件は瞬く間に世間に知れ渡った。
事件後、軍や警察の調査で衝撃の事実が明らかにされた。


鶴来山にあった洞窟の中の謎の建物の存在についてだ。
建物の所有権は都市開発機構と出資していた民間企業のものだと判明する。


但し、組織の一部が秘密裏で行われたものであり、それ以外の者はその事実を知らなかった。
因みに組織の一部はヒレッジニュータウンの極秘の地下施設にも関わりがあったと言われている。



彼らは鶴来山市でも手に掛けた。
自治体に条件付きで発電施設の誘致を持ち掛けた。
発電した電気で外部に売る事で税収が潤うというものだ。


だが条件には建設に関する運用に自治体が関わる事を控えてほしいというものだ。
企業が法律を遵守して行うと約束を取り付けた事と、財政が潤しくなかった事から市民の暮らしを守るべく自治体は受け入れた。
こうして発電所とダムが出来上がったが、洞窟の中の秘密施設まで造られていた事は自治体も知らなかった。


この件は民間企業の上層部が自治体に頭を下げたが、民間企業に対する批判の収束の見通しは立っていない。
また鶴木山市の自治体にも悪意はない選択とは言え、事情を理解していない一部の者達から批判を浴びる事になった。


もう一つ、未だに解明されていない謎が残されている。
市の職員であった幸江は事件の首謀者であるが、何処から来たのか、どうやって怪物を作ったのか今になっても判明されていないのだ。
おまけに前途で述べた組織の一部との繋がりの糸口は掴めていない。


事件以来、鶴来山市はダムの破壊による水害により、生き残った市民は市外へ避難を余儀なくされる。


この忌々しい出来事の渦中に立たされた少年はというと、世間では公にされておらず、避難した者として扱われている。
注目の的になる事を望んでいなかった少年にとっては気にはしていない。




こんな形で終わった事でもどかしさを感じた少年。
だが、まずはスマホを閉じてゆっくりしよう。 少年はベンチにもたれ、眠りにつこうとした。


「久しぶりね。 私の事を覚えている?」


…誰かから声が掛かる。 その声に気づいた少年はハッと目を開け、振り向いた。
声を掛け、こちらに近づいてきた女性は鶴来山市の市長。
しかし、あの一件で自治体の機能が失って以来、現在は休職している。


「ようやく感謝を伝えることは出来たわ。 
えっ? 力不足だった…。 でも、それでも貴方は凄かったわ。 
そのお陰で生き残った人たちは今日も生きているって事を」


あの事件で市役所から離れて以来、後始末絡みで暫くは再開する事は無かったが、今ここで再び出会う事になったので驚いている。


「貴方のようにもっとアグレシップに動かさないとね…、この先は街を再び取り戻さないといけない事だし。
その道のりは茨で敷かれた崖っぷちでしょうけど、貴方のように突き進んでいくわ」


今後は被災した街を元に戻すと宣言した市長。


「じゃあ私はこれで。 ありがとうね」


市長は感謝と今後の事を伝え終わった後、その場から去っていった。


市長の不幸に負けない潔さに奮わされた少年はベンチから立ち上がる。
挫けず前に進もう。 その気持ちでベンチから離れて行った。
























~ 鶴来山市 ダムの真下 ~

誰もいなくなったダムの崩落現場。
その下の岩場ではダムの壁の瓦礫で埋め尽くされていた。


ガラガラ…


瓦礫に僅かな揺れ。
それが段々と大きくなり、小さな破片が揺れにより下へ転がり落ちる。
その瞬間、爆発に近い衝撃と共に瓦礫の一部が崩れる。

そこから…


回転刃を付けた片腕が飛び出してきた。








MP CRUSHER

THE END




 

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