ヘルザート「あはっ! やるじゃなーいっ! お返しだ!」


片手の皮膚が黒く変色したかと思いきや、そのまま手の形をした黒い物体となって発射してきた。


正男「うぉっ! ( 甘くは見てなかったとはいえ、予想できない仕掛けにはいつも驚くぜ! )」


黒い物質を操る魔術師みたいな能力を持った女幹部。 
見た目に反する身のこなしっぷりと予測できない姿勢での攻撃に翻弄される正男。

咄嗟に避けたが、追撃は納まらなかった。
正男がいる位置から少し離れた斜め横の位置に黒い手が延びだした。
ヘルザートが放った手の形をした黒い物体に注視していたため、視界に逸れていた。


ヘルザート「意外と隙があるねぇっ!」

正男「しまったっ!!」


正男は両手でガードしたが、黒い手のパンチで吹っ飛ばされてしまう。


正男「がはっ!!」


屋上の柵に背中から追突した正男。 柵は衝撃で折れ曲がった。
渾身の一撃を受けたが、柵を突き破って屋上から地上へ落下しないだけでも幸運だった。

ヘルザートという女幹部は強敵だ。
黒い物質を操る恐ろしい女に正男は追い詰められたかに見えた。

だが、正男は戦闘のプロ。 相手の動きを見て学習していた。


ヘルザート「今、お前、死ぬ!」


単語毎に区切りながら叫ぶと、手の形をした黒い物体を投げ飛ばした。
正男は折れた屋上の柵パイプを引き千切り、それで跳ね返した。


ヘルザート「ぐはぁっ! ごほぉっ! おおおおおおぉぉっ!!」


驚く間もなく、手の形をした黒い物体がヘルザードの顔面に直撃。
その瞬間、突如電撃がヘルザードの身体を襲った。


ヘルザート「おぉ…、最高に…やるじゃん…」


全身が焼き焦げても笑うヘルザード。
黒い物体が地面に落ちた後、ヘルザードは自分の胴体を見詰めた。
己の敗北を確信した。


腹に柵パイプが突き刺さっていた事を…


この戦いに逆転を起こした経緯は下記にあたる。
正男は屋上の柵パイプで跳ね返した手の形をした黒い物体をヘルザードの顔面に当てた。
その次にパイプにフレイサンダーの技の元になる電気と熱を送り込み、一直線に投げ飛ばし、
ヘルザードの胴体を直撃させたのだ。


ヘルザート「やっぱり敗北するんだ…、でもつまらない勝ちよりも満足して負けるのもいいよね」


何かを悟ったのかヘルザードは床に膝を付く。 
勝敗がついた後、正男は彼女の傍まで近づき聞き出そうとする。


正男「大人しく喋った方が良いと思うぜ。 動けそうに見えるが、もう結果は同じだ」

ヘルザート「女だから情けを掛ける? 私が口にしようがしまいが、アンタがやり込む度に段々と分かる」

正男「何…?」


笑いながら否定すると、背後から数本の黒い手が床から伸びてきた。
その手がヘルザードの顔面を掴む。


ヘルザート「短い時間だったけど、楽しかったよーっ! バイバイ」


ボキッ!


自らの意思で自分の首を曲げてはいけない致命的な角度まで捻った。
ヘルザートという狂気の女は恐れも無く満足した笑みをして自害した。


だが、短時間でありながら奇怪な女と巡り合った事で頭の片隅に刻み込むだろう。


正男「期待外れか…」


結局、奴らの目的を一端も得られなかった。 


スマートフォンに着信音が鳴り響く。 着信元は守だ。


守の声「正男! 女の悲鳴が聞こえたという事はトドメを刺したと見なしていいのか?
だとしたら良くやった。 手がかりは掴んだか?」

正男「あぁ守か? アイツにプロレスを食らわされたよ」

守「そうか、まぁ無事で何よりだ。 此方は今、態勢を再び持ち直したところだ。
戦いが終わって早々に悪いが、今すぐ俺のとこへ来て欲しい。
奴らを一網打尽にする為、最大限の攻勢を掛ける」

正男「分かった。 すぐそっちに向かう」


やり取りの後、正男は守の元へ向かうべく、駅ビルを後にする。

だが、彼がその場から去る姿を当然、レックス・ウィリアムは見逃さない。


レックス「ヘルザード、てめぇの逝かれた勇姿は胸に刻んでやったぜ」





暴動が起こる一ヶ月前…


正男はまたもこのニュータウンに来た。 依頼は勿論の事、暴徒鎮圧だ。
彼はすっかり自然を仕事にする人間とは思えない程のお目付け役になってしまった。

現場はステーションオープンスペース…、玄関口とも言われる駅前広場で事件が起きた。
都市開発機構の職員や警察官に模した丸太の人形を暴徒共が
チェンソーで木粉を撒き散らして切り落とした後、銃を持って民主主義、市民主権を叫びながら乱射したのである。

民主的活動とは程遠い矛盾に等しい暴力をは正男は守が率いる部隊と共に鎮静化を図ったのである。

そんな時も、感謝の意を示さない男が正男の元へ近寄る。


室長「また来たみたいだな。 君はこの街のヒーローのつもりかい?」

正男「俺は手伝っただけだ。 浮かれてもいない」

室長「そうか。 だが、君の行いで全てが好機に恵まれるとは限らない」


冷めた態度で正男に接する室長。


守「お前、あの時とは変わらないな! どうしていつも そんなぶっきらぼうな面をする」

室長「俺だって好きでこんな面をしている訳じゃない。 それに、こっちの事情も考えて欲しい所だ。
一般人が対処した事を世間に漏らしてみろ。 
此処の街の治安は無能だとか不要論とか色々罵られて面倒な事になる。
勿論感謝はしたいものだが、理想と現実は違うものだよ」

守「現場の悲劇より目先の利益を優先させるのか? 支援もよこさず彼が来なかったら今頃…!」


感情もなく事務的に処理するような感覚で淡々と理由を口にする室長。
どんなに揉め事があろうが、その表情や心情は揺らいではいない。


言い争いが続いている最中…、
離れたところから数名の暴徒が銃を持って此方へ襲い掛かって来た。


守「また残っていたのか!」


バンッ! バンッ! バンッ! 


守が行動を起こす前に数名の暴徒が倒れた。


うち半分は正男がファイヤーボールで暴徒の片足に当てた。

もう半分は室長が拳銃で一発ずつ、片足に撃ち込んだ。
しかも50メートル以上離れた先から一発も打ち漏らさず迎撃させた。



室長「腕前が良いじゃないか」

正男「そっちこそ」


周囲はこの光景を見て驚嘆した。
誰から見ても不釣り合いの悪い二人がお互いに恐ろしい瞬発力で数名の暴徒を倒したのである。


室長「正男、お前の為にも言っておくが偏執者共に目を付けられる前に去った方が良いぞ。
この街にヒーローは誕生しない」


そう告げると、背を向け、ゆっくりとその場を去って行った。
室長の背を見た正男は何処か哀愁を感じていた。


この時点で奇妙な関係を築く礎が出来上がる。




…回想、終了


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