真夜中…、降りしきる雨が夜の静けさを払う。
木々に囲まれた家に寡黙な男が住んでいた。
家全体が雨で包み込むように響く中、男は無表情でソファに座り込んでいる。
突如、部屋の灯りが一本の糸がプツンと切れるかのように静かに消えた。
男は気づいたが、驚きはせず冷静を保った。
停電の原因を探ろうとしたその時、雨音とは違う音が玄関から響いた。
それは扉を軽く叩く音。
この時間帯に何事なのだろうか? そう疑念に抱きながら足を動かし、玄関に着くと、男はゆっくりと扉を開けた。
玄関の外は暗闇と地面に打ち付ける豪雨だけ。 人の姿は見当たらない。
あの音は気のせいだったのだろうか…? そう思いながら閉めようとすると、背後から重く冷たいような声がした。
警戒しながら振り向くと、そこに全身が漆黒で人の姿をした者が立っていた。
その者の眼が開いた。 赤い眼だ。 その眼から赤い涙を流している。
一瞬恐怖した男であったが、静かに佇むその姿を見続けると不思議と恐怖よりも哀しみが滲んでいる事に感じていく。
「何の用だ…?」
男はその者に問いかけた。
「言った筈だ。 無念を共に晴らす事を…」
「まさか…、あの時の…」
男は以前の事を思い出した。
人間による非業の行いにより多くの命を失ったペットモン達を雨の中、墓参りした時、後ろから生気のない声で語り掛けた。
振り向くと自分しかいない墓場にいつもなにか無数のペットモンが自分に向けて見つめていた。
ペットモン達の肌は薄暗く、瞳から血の涙を零していた。
…その事を今でも鮮明に覚えていた。
「言ったはずだ…。 無念に苦しんでいるが、力で晴らすのは悲劇を招くだけだと…」
「そうか…、それでも我は君を必要としている…」
「なっ…?」
その者の眼が赤く光った。
コガ「はっ…! はぁ…、はぁ…。 何度この夢を見させるのだ…」
首領の部屋で身体中に大量の汗を浮かばさせながら目を覚ますコガ。
息遣いも荒かった。
コガの部下「…失礼します。 コガ様」
部屋の扉が開き、部下が伝令で入って来た。
コガの部下「たった今、最新の情報が入りました。
正男がラギアスを撃退したとの事。 このままでは我々の計画の遂行が困難になるかと思われます。
ですので、早急に判断をお願い致します!」
コガ「そうか…、報告ご苦労であった。
では、こちらから大勢のペットモンを率いて、大都市に強襲に掛かる。
そして、俺も強力なペットモンを連れて大都市に出る。
その事を下の者どもに伝えろ」
コガの部下「はっ! (部屋から出る)」
コガ(あれ…、俺は今、何を言ったのだ…? いやっ 俺は今何をすべきか早急に行わなければならない)
…そして、現在。
高層ビル同士を繋ぐ鉄骨の橋の上で正男と対峙するセンクウザ。
センクウザの咆哮と打ち出す凄まじい爆風を放つ弾で静粛した空気を一変させる。
まるで暗闇の空の下、降臨した巨大な竜を断崖絶壁の上で激闘を繰り広げる様のよう。
見る者を圧倒的な恐怖を与える存在であるが、戦闘のプロである正男は的確な判断とセンクウザの動きを予測しながら善処。
数十分間の攻防の末、センクウザの討ち果たす。
正男「ふぅ…、相変わらずの強さを持っているな」
クリス「やったね…、正男。 ついに、全てのボスクラスのペットモンを抑えたのよ」
正男「安心するのはまだ早いぜ…。 まだ残っている問題が…。 むっ? 上から何かが来る!」
突如として空が裂けるような轟音が鳴り響いた。
正男とクリスが顔を上げると、無数の星が輝いていた夜空が瞬く間に濃密な赤で染めた。
そして、もう一体のセンクウザが赤く染まった曇り空を裂くようにして現れたのだ。
二人が見たセンクウザ、先ほどの個体とは違い、表面の肌が赤く染まっていた。
クリス「あれは…、ブラッドレッド・センクウザ…、センクウザよりも上位の個体じゃない!」
正男「…その強い奴の頭にアイツが乗っている!?」
クリス「えっ!?」
飛来して来るブラッドレッド・センクウザの頭の上にコガが乗っていた。
BR(ブラッドレッドの略)センクウザが橋の位置まで降下すると、コガが橋に飛び移った。
コガ「またしても大胆な登場で驚いてしまったか…?
それともこのセンクウザを見て慄いたか…? 君ならそんな事はないな。
君の活躍でパープル団も動かざるえなかった」
正男「新しい秩序とか何かの為、街を燃やすのか!?」
コガ「悲願の為の行いだ」
正男「コガ…。 お前があの時の悲劇に憂いでいるのは俺でも分かる。
だが、コガがしている事はペットモンの未来に繋がらない!」
コガ「正男…、君もペットモンの悲劇を行わせない取り組みをしているそうだが、
非業の者共は抜け穴のようにすり抜けて悲劇を繰り返すだろう。 そのような者共は力で制するか無いのだ!
正男よ! 法の力より武力で世を変えるべきだ。 そして、楽園というユートピアの実現の為にもお前を必要しているんだ」
正男「楽園だと…!」
コガ「そうだ…。 誰にも傷つくことのない、振り回されることのない、温かく生きられる…。
そんな場所をミウセカンドと共に創成したい」
正男「コガ…、かつてのお前は優しくて友好的でペットモンと人間の共生を誰よりも取り組んでいた。
今でも、お前のペットモンに対する信念は伝わる。 だが、悲劇を重ねて作り上げる楽園なぞ、そもそも楽園では無い!」
コガ「あぁ…、やはりその答えが返って来るか。 仕方ないな…。 Bプランに入るしかない」
正男「…?」
コガ「我々の本拠地で巨大アンテナの作動の準備に入った。
アンテナから広範囲に拡散される周波には脳神経を及ぼす性質が含まれている。
我以外のペットモンのみならず人間にも正常な認知能力を奪い、我々の意図を思うように動かす」
正男「洗脳に特化した電波か…」
コガ「そうだ…、正男の仲間で体力自慢のザトシもあの電波には叶わなかった。
住民を支配したくなかったが、これも楽園という理想の為だ。 君が邪魔をしなければ、こうはならなかったのだ…」
正男「ならば引き続き邪魔をさせてもらうしかないな!」
コガ「ほぉ…、ならば止めて見ろ! だが、簡単には行かないぞ。 パープル団の拠点の攻守とも強力だからな」
そう告げると、BDセンクウザに飛び移り、大空に向かって飛び去って行った。
クリス「正男…、みんなを洗脳させてしまうって言うの…?」
正男「そうはさせる訳にはいかないだろ…! 急いで、キドに連絡しよう」
キドに電話を掛ける。
ドクター・キド「おぉ正男か? 空からブラッドレッド・センクウザが現れたのを知っているか?」
正男「俺が確認しました! コガがそいつを操って」
ドクター・キド「なっ なんじゃと…?」
正男「パープル団の拠点を探してください。 でないと、人間を巻き込んで洗脳させようとしています!」
ドクター・キド「組織の居場所か…。 そう言うと思ったわい。
お主がパープル団の事で話してから、ワシは仲間と共に居場所の特定に励んだ。 先ほど、特定を終えたとこじゃ。
地図を送っておこう。 まさか…、あやつが一線を越えるとは…。 何があやつを変えたのじゃ…?」
正男「俺も分かりません。 …地図は受け取りました。 ドクター、恩に着ます」
悲劇を繰り返さない…。 正男はコガのいるパープル団の拠点へ向かって行った。