ここは正男達が住む街とは遠く離れた別の街。
街の中心から少し離れて、南西部の方にあるところに高校がある。
その付近には閑静な住宅地が並んでいるが、疎らでありながら田んぼや畑が存在する。
その高校に通う生徒の数は約200人規模で、他と比べ比較的に数がやや少ない。
ただ、普通学科から高度な技術を身に着ける学科まで学習内容は幅広く充実している。
その高校に通う、一人の少年が居た。
彼の年齢は16。 普段、余り口を開かず、お喋りが少ない事から、気弱であると見られるが、
実際は短気でイライラしがちである。 その為か、最近ではその欠点に悩み始めている。
彼には興味のある科目があった。 それは数学と社会である。
数学は幼い頃から好きな科目であったが、高校の時点でやや苦戦気味である。
社会は中学時代から歴史、地理を学んでいる内に、興味を示すようになった。
少々勉強不足でありながらも、何とか平均よりやや上と維持している。
一見変わった高校生であるが、ある悩みで自身の生活や人生が一変する。
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〜 高校・教室 〜
少年「あぁ・・ 困ったな・・」
放課後の時間、高校の教室の中で彼が机の前に座っていた。
机の上には1枚の紙を呆然と見つめていた。
その紙は即ち、社会科の先生から課せられた宿題の内容である。
内容はこう書かれていた。
『 自ら好きな名所に行って、そこでの歴史、地理、感じた事をレポートに書く事 』
所謂、新聞記者みたいな活動をするのが今回の社会の宿題である。
思った事を簡素な書くだけ、比較的に簡単な課題であったが、彼は悩んでいたのだ。
何故なら、この街の名所でレポートしようとしても斬新性が乏しいからだ。
中々、思いつかなかったのか、その課題の紙を自宅へ持って帰った。
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〜 自宅 〜
修二「インターネットしたらピンと来るかもしれない・・」
自宅へ帰宅した後、課題の事を少々悩みながらも趣味であるインターネットに没頭していた。
そんな時、彼は画面の検索の下にあるニュースの欄に一つの記事を目にする。
彼はマウス操作し、その記事のリンクをクリックして、記事の内容を開く。
『 10年前に施行された政策で社会福祉に向上 』
記事の内容によると、10年前に市独自の政策が行われた社会福祉政策で、
その一環とした『社会福祉支援事業』を設立された。
政策の概念では、障がい者、家に篭っている人、心の弱い人等・・
社会的に立場の弱い人達を支援するものであり、主に学業、就労といった面で社会復帰を行っている。
施行当初は余り認知されていなかったが、最近になってテレビやネットで
ニュースとして取り上げる様になってから、他方の都市からも注目されている。
これを見た少年は頭の中にピンと来たと同時に、悩みが一瞬の内に消え去った。
彼はこの街でレポートを書きとめようと心から決めたのである。
彼は早速、地図で場所を調べ始める。 場所は山に囲まれた街、鶴来市。
人口は1万人程。 一人の少年がいる街と比べ、かなり少なく、規模的には町に近い。
ただ、住宅地と緑地公園の整備や大学病院の誘致で、ニュータウン化が進められている。
遠く離れており、この街から鶴来市まで電車の運賃は片道3000円程である。
高額な運賃であったが、彼の貯金で十分足りている。
調べ終えた後、パソコンの電源を切った。
その後、明後日の日曜日に向けて早速準備に取り掛かった。
2万円程の経費と文房具、ノート 等の必需品をカバンの中に詰め込んだ。
必要な物を全てカバンの中に納めたが。 彼はまだ入れる物があると考えていた。
彼はクローゼットから少し大きめのサイズをした硬そうな箱を取り出す。
箱の表面を見ると指紋認証装置が付いてあった。 何か重要な物が入っているのだろうか・・?
取り出すと、『念の為に』と思いながら、カバンの中に再び詰め込む。
少年「良し・・」
準備を終えると、彼は部屋の電気を切り、直ぐにベットの上に寝転がり、就寝に入った。
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〜 高校・職員室 〜
レポートの前日の土曜日。
彼は行き先を伝えようと職員室に赴き、社会科の先生に話しかける。
少年「やぁ、先生。」
先生「おぉ、どうしたんだい?」
少年「レポートの事ですが・・・ やっと決まりました。」
先生「おぉ、それはどこに行くんだい?」
少年「えぇっと・・・ 鶴来市です。」
彼は行き先を報告した途端、先生は驚く顔になって・・
先生「それって・・、遠くへ行くんだよね。」
少年「はい・・・」
先生「遠いから、止めといた方がいいんじゃないかなぁ?
この街でも、レポートになれるところは山ほどあるよ・・。」
少年「そうですか・・ 僕・・ 昨日、準備したばかりなんですよ。」
そう言うと、落胆した表情で職員室から出て行った。
先生「昨日、準備したばかりか・・。 遠出まで行く意気込みは良いが・・」
遠出までしてレポートするのは素晴らしいが、先生は気にする事があった。
背景には新興ニュータウンや観光地で謎の武装集団やテロリストによる暴動や破壊活動、
技術系大学での展示用ロボットの暴走、
ペットモン環境保護と称しペットモンを暴走させる過激な保護団体、
近年、平和を脅かすような情勢が増えてきてから、彼一人で遠出するのは慎重であった。
ただ落胆して出て行った彼を見て、先生は悩み始めた。
先生「困ったな・・、昨日準備したなら、宿題を出した側として申し訳ないな。」
先生は直ぐに受話器を取り出した。 先生の友人である、他校の先生から相談をする為だ。
他校の先生の声「やぁ、どうした?」
先生「ちょっと困った事があってな・・、俺の生徒が、
レポートの為に態々遠くへ出かけるらしい。」
他校の先生の声「へぇ、結構こだわっているじゃないかぁ・・、それで?」
先生「遠出をさせるのは危険じゃないかと思って、つい言ってしまったんだ・・。
お前だったら、何と答える?」
他校の先生の声「そりゃあ、『じゃあ気をつけな』と言うよ(笑い声)。
まぁ、君はちょっと気にしすぎじゃないかな? ほら、僕の生徒だって、他の街へ行くんだし・・。」
先生「鶴来市はちょっと寂しいとこらしいぞ・・、ニュースにも取り上げたらしいけどさ。」
他校の先生の声「生徒思いだなぁ・・ あぁそうだ、こうしよう。
僕の生徒を君の生徒と一緒に行ったらどうだい?
寂しい街でも、二人一緒なら何とかなる。」
先生「お前の生徒を俺の生徒と一緒にあの街へ行かすのか・・?
どこからそんな提案を持ちかけたんだ・・。」
他校の先生の声「まぁまぁ・・・ まず、僕の生徒の話をしよう。
その生徒は女の子で、しっかり者だが、友達から悪戯されたとか聞いているんだ。」
先生「やんちゃな側面があるってか・・? それじゃあ、
俺の生徒とは、気が合わなくなるんじゃないかなぁ・・?」
他校の先生の声「大丈夫、大丈夫。 もし、向こうで知らない誰かに襲われた時は、
色々対処出来るからね・・。 まっ、彼女はどうやら・・・」
彼女の意外な素性を話した他校の先生、しかし先生は・・。
先生「お前・・ 寝言を言い出したな?」
他校の先生の声「いやいや、本当だって。 俺は見たんだよ・・、彼女の本当の姿をさ。
まぁ嘘だと思って、一緒に行かせたらどうだい?」
先生は彼女の素性という話に困惑したが・・
先生「分かった。 んで、何故、その子と一緒に行かせるつもりなんだ?
君の高校は何を取り組んでいるの?」
他校の先生の声「あぁ、こっちは社会科学習の一環として、街の取材を宿題としたんだ。」
先生「えっ? 向こうも似たような事をしているのか?」
他校の先生の声「まぁそうだね。 となれば、お互い様だ。
まぁ、彼女はこの宿題にかなり悩んでいたらしい。 その悩み深さは僕に相談をした程だ。
その後、君が電話をかかってきて、君と話をしたら、こんな閃きがついた訳さ。」
先生「成る程・・。 おっと、授業の時間が始まりそうだ。」
他校の先生の声「あぁ僕もだ。 んじゃあ、電話を切るね。
僕の生徒に、そう伝えておくね。」
先生「じゃあ、宜しく頼むよ。」
先生は電話を切った。 相談した結果、
他校の女子生徒と一緒に街へ取材を行う事になったのである。
その生徒は意外な秘密があると他校の先生から言われているらしい。
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〜 高校・玄関の中 〜
放課後の時間、先生は帰宅しようとする彼に声をかけた。
先生は彼に『行った方がいい』と改めて伝えた。 彼は先生が気が変わった事で
目が丸くなったが、後に嬉しい表情へと変えた。
先生「ただ、行くには条件があるんだ・・?」
少年「条件・・? 何なんです。」
条件とは他校の生徒と一緒に行く事である。
その条件に色々気になった事があったが、彼は軽くその条件を飲んだ。
待ち合わせ場所や時間を先生に伝えた後、彼は帰宅した。
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これで少年は鶴来市でレポートする事が出来るようになった。
他校の女子生徒と共に行くという条件が付いた事で、
明日、どのような関係を築き、現地でレポートを書き留めるのだろうと、
彼自身、心の中で楽しみにしていた。
だがしかし、その学生の取材活動は、
狂気の状況を目撃する事になる。
CRAZY CRUSHER